株式会社木彫前田工房

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2022/03/25

木彫りの可能性と将来を広げたい、業界に新たな常識を刻む相棒

大阪産業創造館プランナー 中尾 碧がお届けする

社長だって一人の人間、しんどい時もあります。そんな時にモチベーションの支えとなり、「一緒に頑張っていこな!」と声をかけたい“人”または“モノ”がきっとあるはずです。当コラムでは社長のそんな“相棒”にクローズアップ。普段はなかなか言葉にできない相棒に対するエピソードや想いをお伺いしました。

【 vol.21 】株式会社木彫前田工房
~木彫りの可能性と将来を広げたい、業界に新たな常識を刻む相棒~

前田氏はだんじり祭が盛んな堺市出身だ。小学生の時に修理されただんじりを見て、将来は木彫職人になることを決めた。だが当時は木彫職人になるにはどうしたらいいのかがわからなかった。また、職人やだんじりに係わりがない親族が多かったこともあり反対された。その後大学は社会学部を選び、就職もだんじりと無関係の企業に決め、幼い頃の夢から離れていた。しかし卒業前、鏡に映った精気の無い自分の顔を見て愕然とした。「このままでは人生面白くなくなる」。そう気づいた前田氏は、父に木彫職人になることを直談判して賛同を得た。

弟子入りのため高名な木彫職人を訪れた。10代前半での弟子入りが当たり前の世界で、21歳で入門を決意した前田氏は異端の存在であり、最初は断られたが諦めずに門を叩き続け、前田氏の熱意を知る知人の協力もあり入門が認められた。「人よりも遅れている分、集中して取り戻す」と自分を奮い立たせ、師匠や先輩が彫る姿を見て実践を重ねた。師匠はその姿勢を見て、前田氏自身が暮らす町会のだんじり彫刻の仕上げ作業を任せた。その重圧感たるや凄いものだったと前田氏は振り返る。思い切って彫り上げたこの経験は職人として生きていく上での意識を変えた。また、休日や夜中でも必死に練習して木彫りと向き合う日々の中で、次第にだんじりそのものだけではなく、木彫りが持つ可能性に惹きつけられた。

代表取締役 前田 暁彦氏

弟子入りして11年目、だんじりの新調は減少の一途を辿っていた。そんな状況下だったが、「大好きな木彫りを手掛けたい」、「一人前の職人として自分の名前を作品に残したい」という想いが募って独立した。独立後はだんじり彫刻を2台手掛け、1台につき4年かけて彫り上げた。地元のだんじりということに加え、彫刻のテーマを自分で決めることができたためとても充実した仕事だった。

一方で経営者としての挫折もあった。期待の一番弟子が「今後独立しても仕事はない」という理由で別の業種へと転職してしまった。木彫りに興味があるのに将来が不安で弟子が入らない、もしくは途中で諦めざるをえない状況が業界を取り巻いていた。この反省から組織として従業員が安心して働けるようにしたいという想いが芽生え、2021年に法人化した。徒弟制度、個人事業主が当たり前であるこの業界での法人化は大変珍しく新しい動きだ。今は社長として必要な勉強をしながら、技術を残すために全国を訪れる。事務所も移転して人脈も広がった。

もちろん職人としての仕事もこなす。相棒は約130本のノミだ。一つずつ買い揃え、自身の手に合うように自分で削ってあえて小さくしたノミもある。道具だが職人にとってはまさに手であり指先である。社長であり親方である前田氏の役割は、彫刻物の下絵を決めて粗彫りをすること。彫刻物の方向性を決め、作品に命を吹き込むとても大切な部分を担う。

法人化により引き合いが増え、今やだんじり彫刻に限らずさまざまな商品ができ、木彫りの新たな可能性を開いた。社長としての業務や技術伝承に日々奮闘する前田氏にとって、木彫りは好きなことに集中できる貴重な時間だ。木彫職人をめざす人たちと木彫り業界の明るい未来に向けて、一刀一刀に熱い想いを込める。

(取材・文/大阪産業創造館マネジメント支援チーム プランナー 中尾 碧)

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